大阪・関西万博(EXPO 2025 Osaka, Kansai)の機会に、「ベトナム・ナショナルデー(建国記念日特別イベント)」を記念して、9月9日にレ・タイン・ロン副首相率いるベトナム代表団が大阪を訪問しました。
公式式典には、日本および海外から400名超が参列し、高円宮承子女王殿下のほか、小渕優子衆議院議員(日越友好議員連盟会長)、古賀友一郎内閣府副大臣、さらに各地方自治体の首長、万博関係者、経済団体、企業関係者らが出席しました。開会式では、レ・タイン・ロン副首相は、ベトナムにとって日本は長年にわたり「最重要のパートナー」であり、「誠実で信頼できる友邦」であると強調するとともに、今後、多分野での協力を一層深化させたいとの意向を表明しました。同日、レ・タイン・ロン副首相は「未来を共創し、グローバル・バリューチェーンを結ぶ」をテーマとする「ベトナム—関西経済フォーラム」を主催いたしました。日本から、三井住友銀行、みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、日本貿易振興機構(JETRO)、近畿経済産業局(METI-Kansai)、大阪商工会議所(OCCI)、関西経済連合会(関経連)などの民間企業、行政機関、経済団体ならびに日越双方の企業が多数参加しました。
これらの取り組みは、万博におけるベトナム・ナショナルデーの外交的ハイライトとなったのみならず、ベトナムが力強く推進する経済協力、投資促進、制度改革に関する一連の新たなイニシアチブの基盤を築くものとなりました。
ベトナムの新時代における日本企業のビジネスチャンス
ベトナムは、日本の包括的戦略的パートナーとして、2024年8月にトー・ラム書記長が就任して以来、短期間で前例のない変革を遂げています。2030年までに「近代的な産業をもつ上位中間所得国」、さらに2045年までには「高所得の先進国」を目指す目標のもと、ベトナムは、「民族の飛躍の時代」と呼べる大変革を進めています。
省政府の再編と行政改革
ベトナム政府は、中央政府の機関を30から22(14省庁、3つの省庁相当機関、5つの政府直属機関)へと大規模な統合を行いました。これに伴い、地方行政システムも従来の3層構造から2層構造へと再編し、63の省および中央直轄都市が34の行政単位へと統合されました。新しい行政体制は2025年7月1日から正式に始動しており、同時に行政手続きの簡素化および地方分権も進められています。
経済成長と貿易の急拡大
ベトナムのGDP成長率は2024年に7.09%、2025年の上半期には7.52%に達し、過去15年間で最高水準を記録しました。2025年には少なくとも8%のGDP成長率を目指し、2026年から2030年の間には2桁の成長率(10%以上)を目指しています。これらの成長率は、1950年~1973年にGDPが20倍以上となった「日本の高度成長期」と重なります。
貿易面では、ベトナムの2024年の輸出入総額は7,862億9,000万ドルに達し、そのうち輸出は4,055億3,000万ドル(前年比14.3%増)、輸入は3,807億6,000万ドル(前年比16.7%増)となり、貿易黒字は248億ドルです。日本は現在ベトナムの第4位の貿易相手国であり、2024年の二国間貿易額は462億ドル(前年比2.7%増)となっています。貿易収支も比較的均衡しており、ベトナムから日本への輸出が246億ドル、日本からベトナムへの輸入が216億ドルとなっています(ベトナム税関総局データより)。
外国投資動向
ベトナムは現在、約114カ国・地域から投資を受け入れています。2024年の総投資額は382億3,000万ドルに達し、新規プロジェクトは3,375件(前年比1.8%増)、増資プロジェクトは1,539件、増資総額は140億ドル(前年比50.4%増)でした。そのうち加工・製造業が投資をリードし、総登録資本の66.9%にあたる255億8,000万ドル(前年比1.1%増)を占めています(ベトナム計画投資省のデータより)。外務省の海外進出日系企業拠点数調査(2024年調査結果)では、約2,500社の日本企業がベトナムに進出しており、その中には日本の大手企業の大部分が含まれています。
投資環境の変革
日本企業を含む外国企業は、ベトナム省政府の再編と行政改革により、以下の多くのメリットを受けることが期待されます。。
- 制度上の障壁と行政手続きに伴うコストが大幅に削減されました。ベトナム政府は2025年末までに行政手続きの30%削減を約束し、特に投資・税務・通関・許認可分野での手続き簡素化を進めています。統合された中央政府により、投資家が対応すべき窓口を減らし、書類や許認可の手続き効率が向上しています。また、「FDIタスクフォース」を設置し、外国企業の要望や苦情に対応する体制も整備されました。
- 民間経済の活性化が進み、競争力が高まりFDI誘致に貢献しています。2025年5月4日に発表されたベトナム共産党中央政治局決議68号により、国有企業と民間企業間の公平な競争環境が整い、エネルギー、交通、港湾、物流分野などへの外国企業の新規参入の道が広がるとともに、高度人材育成、デジタル化の推進、法制度の整備により外国投資家の運営コストの削減にも寄与しています。
- ベトナムの投資環境に対する国際的評価が改善されています。世界銀行(WB)、アジア開発銀行(ADB)、ムーディーズ、S&P、などの国際機関や信用格付け機関は、2024年末以降、ベトナムの制度透明性やFDI誘致政策を高く評価し、格付けを引き上げました。
日本貿易振興機構(JETRO)の「2024年度海外進出日系企業実態調査」では、ベトナムで事業展開する日本企業の64.1%が営業利益の黒字を見込んでおり、これは5年ぶりに60%を超える水準です。特に製造業では70.2%が黒字を予測し(前年比8.7ポイント増)、赤字企業は17.4%(前年比4.6ポイント減)となりました。2025年には、日本企業の50.4%が営業利益の増加を予測し、9.2%のみが減少を予測しています。また、56.1%の企業が今後1~2年内にベトナムでの事業拡大を希望しており、これはASEAN地域内で最高水準です。
ベトナムと関西の経済交流の深化
・ベトナムと関西の貿易関係
日本の財務省貿易統計によると、2024年度の関西からベトナムへの年間総輸出額は、おおよそ7,142億円(日本全国比27.2%)であり、品目別では、織物、半導体電子部品、科学光学機器が上位品目を占めています。また、関西への年間輸入額は、おおよそ8,402億円(日本全国比19.7%)であり、品目別では、衣類、コーヒー、プラスチック製品が上位品目を占めており、日本全国比からも高水準となっています。
・ベトナムと近畿経済産業局の強固な協力関係
近畿経済産業局は、関西企業のベトナムへのビジネス展開を促進するため、ベトナムの各省市との経済交流関係を構築してきました。ベトナム南部のドンナイ省(ドンナイ省人民委員会)とは、経済協力に関する文書を2013年に締結し、以降4度の更新を経て、現在も地方政府間の協力関係を維持しています。本枠組みにおいて、ドンナイ省工業団地管理局内に日本企業向けのビジネス相談窓口として「関西デスク」設置し、ベトナムに進出する日系企業と現地のサプライヤー企業及び大学等との橋渡しの役割を担う「コーディネータグループ」を、日本からの専門家派遣や日本への招へい研修等を通じて育成してきました(2017~2022年)。
「コーディネータグループ」は、2019年にドンナイ省人民委員会から正式に認可され、日本からのさらなる投資の呼び込みとビジネス相談に対応するため、2024年には、ドンナイ省の取組において、従来の「関西デスク」を「ジャパンデスク」と改称し、ドンナイ省内の部門横断的な連携も強化されました。
・ベトナムの国家戦略における関西企業の貢献
ベトナム政府は産業高度化や環境保全、人材育成を柱とする国家戦略を推進しているなか、関西の中小企業はこうした政策目標に沿った先端技術や経験を活かし、ベトナム経済の持続的成長に寄与しています。
株式会社中農製作所(大阪府東大阪市)は、幅広い分野の部品の精密切削加工に強みを持つ企業で、2017年にホーチミン市に自社ベトナム現地法人(「NAKANO PRECISION CO., LTD.」)を設立し、国際分業体制を構築しました。これにより、日本本社が担う短納期・高難易度加工と、現地工場が中ロット・量産加工を担うことで、高品質かつ低コストの製造を両立しています。さらに、ベトナム人技術者を日本本社で育成しベトナム帰国時には日本で学んだことをベトナム現地法人(NAKANO PRECISION社)にて活かすことで、「ジャパンクオリティ」の技術継承にも注力しています。2026年7月にダナン第2工場が建設完了予定で引き続き今後もベトナムと協業して事業の拡大を進めていきます。
株式会社山本金属製作所(大阪府大阪市)は、高度な加工オペレーションとオンマシン計測技術、ロボットシステムインテグレーションをコア技術にもち、機械加工分野で事業を展開しています。2023年11月には、Yamamoto Metal Precision Vietnam Co.,Ltd.(YMPV)、大阪大学およびハノイ工科大学との間で、摩擦攪拌接合(FSW※)技術に関する国際産学連携共同研究の調印式を行いました。また、2023年12月には日越経済フォーラムで、同社のDX(デジタルトランスフォーメーション)に関する取り組みが紹介され、制御システムやセンシング技術を通じて、ベトナム製造業の生産性向上とエンジニア育成への貢献がアピールされました。
※摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding)・・・円筒状のツールを回転させながら部材を練り混ぜて一体化させる接合法。接合部の熱影響を抑制できる、シールドガスが不要、騒音や粉塵の発生を低減できるといった利点がある。
このように、現地生産体制を基盤とした技術継承やコスト競争力の提供、また産学連携やデジタル技術による革新など、多様なアプローチがベトナムの産業発展や人材育成に寄与しています。関西企業がベトナムの国家戦略において果たす役割は、今後も幅広い分野で深化していくことが期待されます。
新たな飛躍の時代
かつてない規模の国家機構と制度の改革の推進により、ベトナムは、今後飛躍的な経済成長が期待されています。この絶好の機会をとらえ、日本企業にとってもベトナム経済と歩調を合わせながら、ともに成長していくための土台を築くことができるでしょう。